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医師としての役割に目覚めた日本で
ベトナムと日本の患者を支えていきたい

ファム・グエン・クイー
医学博士、京都民医連中央病院/腫瘍内科医長

ファム・グエン・クイー

20年以上日本に暮らし、日本は第二の故郷だと話す医師のファム・グエン・クイーさん。京都民医連中央病院での本業のほかに、祖国と在日ベトナム人のために多くのボランティア活動にも積極的に参加している。日本で努力していることや日本から学んだことを話してくれた。

ベトナム語ができる日本の医師として
日越のベトナム人に信頼性の高い医療情報を発信

「幼い頃から『おしん』の映画が好きでした。おしんの忍耐強さ、思慮深さ、努力する姿に憧れました」
日本を知ったきっかけを、こう話してくれたクイーさん。日本製の扇風機やバイクは「長年使っていても壊れない」と、日本に対する印象はよく、大学入学後は海外留学のために日本文部科学省の奨学金に応募し、合格した。1年間は東京外国語大学で日本語を学び、東京医科歯科大学医学部に入学したのは2003年のことだ。
大学時代は、空き時間を利用して日越友好関係のために何かをしたいと思い、在日ベトナム学生青年協会

(VYSA)に入会。文化交流に関するボランティア活動に積極的に企画・参加した。2012年には博士号取得を目前に控え、医学に関わるボランティア活動をしたいと考えた。

「帰国するたびに、ベトナム人の医療に対する知識不足を実感していました。患者は聞いた噂を信じ、それに従って治療をするため、悪い結果につながる場合が多いのです」
そんな状況を改善すべく、クイーさんはベトナム人の同僚と共に「コミュニティの医学」というボランティア事業を立ち上げた。

「アメリカがん協会など、信頼度の高いウェブサイトに掲載された病気の予防や治療に関する記事をベトナム語に翻訳し、プロジェクトのサイトに掲載することで、ベトナム人が信頼に足る情報を得られるようにしました。私のような海外在住者にとって、これは母国の患者を助けるための適切で実践的な方法だと思います」

現在は、京都民医連中央病院の腫瘍内科医として、化学療法を担当する。「コミュニティの医学」に加え、無料健康相談、受診前と治療中の準備に関するオンラインでのアドバイス、トークショーの開催など、母国と日本にいるベトナム人がより安心、安全な日本の医療にアクセスできるよう支援活動も行っている。

「ベトナムの医者が日本で勉強できるよう紹介したり、日本の医者がベトナムで知識や技術を共有できるように企画したりする活動も行っています」

クイーさんが日本に暮らすようになって20年以上もの時が過ぎた。
「日本で医学を学び、研究し、実践できる非常に良い環境があったおかげです。このまま日本で医師としてもっと貢献していきたい。在日ベトナム人はますます増えていますが、日本にいるベトナム人医師は非常に少ないので、ベトナム語ができる医師の存在は必要だと考えています」

医師としての職業観を変えた
人道的な日本の医療

日本の医療現場において、クイーさんは日本人が「安全」と「慎重」を非常に重視していると考える。例えば、手術や治療にあたり、まずは入念なチェックが行われる。また、治療にあたって医者は患者や家族と慎重に話し合い、治療法の長所と短所をはっきり説明する。つまり、患者のことを非常に尊重しているのだ。

「特に、私が日本で最も素晴らしいと思うのは、障がい者に対してとても人道的な点です。担当する患者が、どんな障がいを持っていようと、どんな立場にあろうと、医師は患者の代わりに勝手に決めることはせず、患者が自分自身の意見や意思を表明できるように多様な方法を使います。手間と時間はかかりますが、そうすることで衝突を最小限に抑え、患者の満足度を高められます」

そういった医師の患者に対する配慮は、クイーさんの職業観を変えるほどインパクトが大きかった。
「かつて、医者の成功とは、高い知識や治療技術を身に付け、自分の能力を証明することだと考えていました。しかし、日本が教えてくれたのは、自分が何者であるかを証明することより、治療の過程を通して患者に寄り添い、患者がより良い人生を送れるように手助けすることの方が、ずっと意義深いということでした」

実践的な交流を通して
真のパートナー関係を

広範な戦略的パートナーシップを樹立したベトナムと日本は、互いをサポートし合う関係だとクイーさんは認識している。

「日本はベトナムの“先輩”で、科学技術や医療で多様な経験がある一方、高齢化などの社会問題を抱えています。ベトナムは若くて元気な労働者を提供することで日本経済に貢献していますが、在日ベトナム人も多くのことが学べます」

この友好関係を維持して発展させていくには、法律面などで適切なサポートと双方の理解が必要だと語るクイーさんは、とくに医療分野において両国の医者が交流する機会が増えることを願う。

「現在、日越の医療交流は新しい知識と技術を紹介する学会やセミナーが多いのですが、医療には『実践』がとても大切です。それらのノウハウがベトナムの臨床現場に浸透できるように、両国政府が『実践』を重視したプロジェクトをより多く展開していくことを期待します」

また、在日ベトナム人を長期的な日本のパートナーとして受け入れてもらえることを願う。
「日本政府には、研修生をはじめとした在日ベトナム人の医療に目を向けていただきたいです。日本の医療に簡単にアクセスできるように、言語、経済、知識のハードルを下げる支援措置が必要なのです」

2000年にホーチミン市医科薬科大学に入学し、2002年に日本文部科学省の奨学金を受けて日本に留学。2009年に東京医科歯科大学医学部を卒業、同年に日本の医師免許を取得。2013年に同大学で医学博士号取得。2012年にボランティアプロジェクトの「コミュニティの医学/Y Hoc Cong Dong」を立ち上げ、病気の予防や治療関連のベトナム語の記事をウェブサイトでベトナム人向けに発信。現在、京都民医連中央病院の腫瘍内科医長としてがん患者を治療・支援している。

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