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U40 スペシャル座談会

生まれ育った日本を離れ、異国で現地の人々と交わり活動を続けるU40の面々。
日本とベトナム、両国それぞれを俯瞰して見つめる彼らは、日々の生活や交流を通じて今、何を思うのか。
未来の子どもたちへのメッセージを交え、日越の架け橋として生きる彼らに胸の内を訊ねた。
参加者
  • 荒島 由也(あらしま ゆうや)
    スターキッチン/スター・コンサルティング・ジャパン創業者兼CEO
  • 池山諒太(いけやま りょうた)
    スリーエーサムズアップCEO
  • 中谷 茜理(なかたに あかり)
    YouTuber/女優

ベトナムに関わる前後で、イメージの違いはありましたか?

中谷茜理
(以下、中谷)
正直フォーをうっすらとイメージするくらいで、何も知りませんでした。でも、住むうちにベトナムらしさが次第に見えてきて。人は真面目だし、器用だし、大きなところでは外交上手でもありますよね。歴史や文化を知るようになり、改めてこの国は可能性に満ちていると感じています。
池山諒太
(以下、池山)
変化が大きいですよね。10年前に来た時は、サッカーが盛んで、観るにしろ、プレイをするにしろサッカーが1番でした。しかし、最近ではバスケットボールやスケートボード、ダンスなど若者に人気なストリートスポーツも人気です。ベトナムの若さを感じますし、オリンピックでメダルを取る日は近いと思っています。
荒島由也
(以下、荒島)
僕はビジネスチャンスを求めてやってきたので、当初はあまり豊かでない国というイメージでした。逆に言えばこれから伸びていく。そこで僕も一緒に伸びたいなと。でも、富裕層は想像以上にお金持ちで、そうでない人は本当にそうでない。多様性を実感させられました。同時に生き方自体も多様で、負けん気に満ちている。様々な要因で今の経済成長がありますが、誰もが上を向いている成長意欲に満ちた国だと思います。

ベトナムの活動を通じて感じた自身に求められる役割やスキル、
今後の課題を教えてください。

荒島
日本文化を食を通じて伝えたいと活動してきました。しかし、最近は逆にベトナムの魅力を日本へ発信したいと思うようになりました。バインミーを使ったラスクやコーヒーなど、この国の人々が大切にする文化を、両国の食文化を知る自分だからこそ世界に発信していければと思います。
中谷
実感するのは私にとってベトナム語が本当に大切ということ。そして今後は言語の通訳者というだけでなく、文化の通訳者として日越を繋ぐ役割になれればと思っています。そのためには言語だけでなく、文化や歴史を含めたベトナムに対する深い理解が必要だと感じています。
池山
僕の教室のミッションは「世界のピッチで活躍する人材を輩出する」こと。世界的な視点を持ち、世界というフィールドに立てる人材育成を目指しています。嬉しいことに日本に帰国した子ども達が「将来は海外で働きたい」、「ベトナムにもう1度行きたい」と言ってくれることも。また、日本のサッカークラブが遠征する際のコーディネートでは、日本の中学生が現地の子ども達と交流し、そのパワーに触れることで心を開き自信をもつようになることも多い。そんな多感な時期の子ども達の成長に繋がるお手伝いをもっとできればと思っています。

ベトナムで活動をし、良かった点はありますか?

中谷
「みんなはしたいかもしれないが、自分はしたくない」など、率直に意見を言う多くの人に出会いました。人によって考え方は違い、暗黙の了解のような目に見えないルールや善悪だけで判断するべきではない。自分の意見を伝えることの大切さを学びました。また、日本にいた時は何事にも文句を言う性格でしたが、自分や他人、そして起こる出来事を感謝して受け入れられるようになりました。
荒島
中谷さんに似ていますが、日本で働いていたコンサルティング会社ではロジックが全てでした。ところがベトナムはその真逆。当初は「疲れるな」と思うこともありましたが、次第に棘がなくなり、多様な価値観を受け入れられるようになりました。「良い大学や会社に入り、良い家に住む。そうでないと落ちこぼれ」など、日本では画一的な考えも多いと思いますが、ここでは誰もそんな比較はしない。柔軟に物事を受け入れられるようになり、自分でも人間性が上がったのではと感じています。
池山
レッスンやコーディネートも同じですね。チームやスタジアムとの交渉も行いますが、急に予定が変わるなどのハプニングはよくあります。だから常にBプラン、Cプランを用意しておくようになりました。気持ちにも余裕ができ、成長したと感じますね。もともと人付き合いが上手い方ではないのですが、サッカーの後に一緒にビールを飲むなど、立場や年齢関係なく誰もが友達・仲間として接してくれるので心を開くことの大切さも学びました。スポーツを事業とする人が少ないこともあり、様々な方面からお声がけいただく機会が増えたことも良かったです。以前は何者でもなかった自分にも、価値を感じられるようになりました。

現在掲げる将来の目標は?

池山
ベトナムのスポーツ産業の市場は約1000億円。対して日本では13兆円の規模があります。だからこそ伸び代や可能性があると思っています。ベトナムではスポーツのスポンサーシップは寄付や社会貢献活動の意味合いが強いのですが、今後は権利やマーケティング活動として行うフェーズに入ると期待しています。経済の成長とともにスポーツのあり方は変わる。スポーツは人や生活を豊かにしてくれるので、この国のスポーツ界の発展に携わり貢献したいですね。
荒島
日本の地方では今後、人手不足などにより農産物を生産できなくなる可能性があります。しかし、農業や食品工場などベトナムならできることも多い。しかも賃金格差がなくなり、日本で働く外国人が減るかもしれない。だから先手を打って協業する必要があるんです。日本では外国との協業に技術の流出をイメージしがちですが、このままでは日本自体を維持できなくなる。そこでお互いの良い部分を補い合う、その橋渡しができればと思っています。
中谷
ベトナム語や歴史文化の理解・向上のほか、国や出身に関係なく人の心に届けられるような人間になりたい。そのためにはパフォーマンス力や教育の力、総合的な社会に対する影響力も高めていきたいと思っています。また、私がベトナムから教えて貰ったように、多くの人に自分の可能性を解き放ってもらいたい。その中で私ができるのは言語なので、日本人やベトナム人に向けた言語教育の分野で活動できればと思っています。

後に続く若い世代にメッセージを。

池山
海外に出ることで成長したことはたくさんあります。最近は海外離れなどの言葉も聞きますが、少し興味がある、海外の音楽が好き、などの理由でもいいんです。自分の中に海外や世界があるのなら、ハードルを感じず、まずやってみて欲しい。もし合わなくてもそれも経験。良い思い出も悪い思い出も将来の財産になるので、ぜひベトナムを楽しんで欲しいと思いますね。
中谷
SNSが身近な生活の中で理想と現実のギャップに幻滅し、辛い思いをしている若い人も多いと思います。そんな世界には正面から戦ってもいいし、逃げてもいい。少なくとも生きてさえすれば、その辛い過去を乗り越えた自分が、将来最高の味方になって、自分に対してパワーをくれます。それを信じて、毎日過ごしてほしいです。
荒島
グローバル時代と言われ、日本にも多くの外国人が入ってきています。この3人は今その真ん中にいて、もうベトナム人とか日本人とか意識していないと思うんです。でも、そこにきて初めて人として協働していると言える。その感覚さえあればどんな世界でも生きられるし、どんな人ともコミュニケーションがとれる。だから快適な空間から抜け出してチャレンジして欲しいですね。その中で一番簡単な方法が海外に行くこと。強制的に自分を変えられます。今は得意なことを伸ばす時代でもあると思うんです。インターネットもあり、ほとんどのことは簡単に調べられるし手に入れられる。だからこそ一般的なスキルに意味はなく、何が好きなのか、得意なのかが大切になってきています。スポーツでも歌でも、花が好きならそれでもいい。そういうことを大切にして、自分をもっと磨いて欲しいと思いますね。
Profile
• 荒島 由也(あらしま ゆうや):スターキッチン/スター・コンサルティング・ジャパン創業者兼CEO
1983年東京生まれ。外資コンサルティング会社勤務を経て独立。2013年にホーチミン市にて料理教室「スターキッチン」を開業後、洋菓子製造・販売を開始。2021年には培ったノウハウを活かし「スター・コンサルティング・ジャパン」を設立。日系企業や地方自治体にベトナム市場への進出支援も開始した。
• 池山 諒太(いけやま りょうた):スリーエーサムズアップCEO
幼稚園の頃からサッカーを始め、日本の広告代理店での勤務を経て、2014年にサッカースクールのコーチとして渡越。その後独立し、2016年4月に「スリーエーサムズアップ/3A Thumbs Up」を設立。ホーチミン市の日本人の子どもたち向けにサッカーとチアダンスの教室を運営するほか、ベトナムの孤児院で、ボランティアでサッカーを教えている。
• 中谷 茜理(なかたに あかり):YouTuber/女優
1993年大阪生まれ。大学卒業後、語学学習のために来越。大学の語学センターに通いながらYouTubeでの活動を開始。2022年には映画『エム・ヴァー・チン』で女優としても活躍。日越外交関係樹立50周年事業のプロモーションビデオにも出演している。

取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)
ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.