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コラム1:深めるベトナム1

コラム:深めるベトナム 第1回

桃木至朗(日越大学教員・JICA専門家)

☆以下はすべて筆者独自の見解であり、日越大学を代表するものではありません。

日越交流の発展につれて、日本でのベトナム情報、ベトナムでの日本情報ともに、ずいぶん豊富になりましたね。しかし語学の壁がまだまだ高いこともあり、情報やその理解が表面的であったり、不正確に終わっているケースも目立ちます。「正しい知識の解説」が存在しても、同じことがらを別の不適切な見方で説明した知識との区別がつかずに混乱している人も、少なくありません。そこで問題なのは、知識そのものより見方・考え方でしょう。現在日本を含む世界中で推進されている新しい教育でも、やがて時代遅れになる特定の知識・技能を身につけるだけでなく、未知の課題に対しても自分で理解や技能を深めていけるような、見方・考え方や学び方の習得が目標とされています。以下では、そうした学びの中で役立つような見方の違いや要注意点にも配慮しながら、ベトナムや日越交流に関して筆者が大事だと考えることがら、論点などを逐次紹介していきたいと考えています。その内容には、ベトナムに長期滞在をされる方、日本で日常的にベトナムとの交流にたずさわる方が要求されるかなり深い知識・理解のほかに、日本の企業・政府機関や大学から仕事・授業で派遣されて短期滞在するベトナム専門家でない方々に、来るならこのぐらいの知識や見方を予習してきてほしいと考えることがらなども含める予定です。

1.参考文献・インターネット

まずはベトナムの基礎知識は、何を調べたら(読んだら)いいでしょうか。

ネットではVietjo(ベトジョー)、外務省ホームページの世界各国の紹介のページ、書籍では『現代ベトナムを知るための63章』(明石書店)などがとりあえずおすすめです。それから現在の日越交流にとって、日本に来るベトナム人の増加はきわめて大事な話題ですね。それに関しては、出入国在留管理庁ホームページの在留外国人統計もぜひ調べてください。みなさんの出身自治体の出身国別在留外国人統計も、調べるのは簡単ですね。

なお、日本語版Wikipediaのベトナム関係記事はもちろん便利ですが、執筆者の趣味が強く出すぎていて読みにくい、または正確でない項目も散見しますので、可能な方はベトナム語版・英語版などとの比較をおすすめします。ベトナム語の練習をしている方は、辞書を引きながらベトナム語版Wikipediaなどの日本関係の項目を読むのも、ベトナムでの日本理解の特徴がわかるだけでなく、それを通じてベトナム人のものの考え方を理解する手がかりがえられるように思います。

2.いくつかの基本的な数字と用語

インターネットでも地図帳でもいいので、地図を見ながらお読みください。

(1)総面積33万平方キロ(日本は37万平方キロ)、総人口約1億人(日本は1億2500万人)、つまりベトナムは、日本より少し小さい国ですね(国土の細長さは同じようなもの?)。総人口の80%以上を占めるキン族(ふつうにいうベトナム人)以外に53種類の少数民族が住む。公用語はキン族の言葉であるベトナム語。文字はクオックグーと呼ばれるローマ字(ラテン文字)を用いる。その他、それぞれの文字をもつ少数民族も散在する。

(2)南シナ海(ベトナム語では「東の海Biển Đông」)で中国などと領土・領海紛争をかかえる。国土最高峰は観光地として有名なサパに近いファン・シー・パン山(海抜3143m)。北部のホン河(紅河)、南部のメコン河流域には大きなデルタがあり、人口も集中している。中部は幅が狭く(いちばん狭いところでは海岸からラオス国境まで50キロしかない)、海岸に張り出したいくつもの山地によって、いくつもの小さな区域に区切られている。日本の地理の授業で習うケッペンの気候区分によれば、北部は熱帯ではなく、寒い冬のある「熱帯夏雨気候」、中部は弱い乾季のある「熱帯モンスーン気候」、中部の南寄りから南部にかけては雨季と乾季がはっきり交替する「サバナ気候」に属する部分が多い。

(3)歴史上の戦争などについて「北部」と「南部」の区別を論じることがある。東日本と西日本は別の世界だよね、というのと似たニュアンスでベトナムの南北の違いが語られることもよくある。しかし地理や行政統計などの地方区分は北部、中部、南部の3つに分けるのがふつうで、その下で北部は「東北」「西北」「北部平野」、中部は「北中部」「南中部(の沿岸部)」「タイグエン(中部高原)」、南部は「東(ひがし)南部」「メコンデルタ」に分けることが多い。

(4)地方行政単位は3つのレベルがあり、いちばん上が日本の政令指定都市に相当する「中央直属都市(ハノイ、ハイフォン、ダナン、ホーチミン市、カントーの5つ)」と都道府県に当たる「省tỉnh(58ある)」、次が「県huyện」(日本の「郡」に相当。明治初期の郡と同じで行政機構として実態がある)と一般の「市(thành phố またはthị xã)」や直属都市内の「郡quận」(日本の政令指定都市内の「区」に相当)、一番下が「社xã」(日本の村に相当)と「町thị trấn」、都市内の街区を指す「坊phường」である。

*日本の単位にひきつけて省を「県」、県を「郡」と訳す日本人もよくいる。省を省のままにすると、「教育訓練省」など中央政府機関の省(ベトナム語では「部bộ」)と混同しやすいので、それはそれで問題がある。

(5)通貨はドン。現金も使えるが、QRコード決済が急速に広がっている。

*2022年の一人当たりGDP:4086ドル(118位)(日本は33800ドル・30位)⇒モノやサービスの値段が高いか安いか判断する目安にもなる。ただし「食べ物が安い」「輸入品は割高」など分野・種類ごとの物価の高い安いには、当然日本とは違いがある。

*コーヒー一杯5万ドンなど物価のケタが大きいので、まずそれに慣れる必要がある(いちいち円換算するのは面倒なだけ。モノやサービスが高いか安いかをドンそのものの金額で判断する基準値を見つけよう)。ただ現在はK(キロ=1000)を使って「500K(50万ドンの意味)」などと表示する習慣が広がっており、日本の万進法から西洋式の千進法に頭を切り替えれば便利である。

6)1980年代末からのドイモイ(刷新)政策で、それまでのソ連・中国型社会主義から「社会主義的方向性をもつ多セクター市場経済」に転換、その後の国際社会・世界市場への参入や高度経済成長を実現。1990年代から日本が最大のODA供与国となるなど、援助・投資や企業進出、貿易、観光など多くの面で日越関係も急成長し、現在は両政府間で「包括的戦略的パートナーシップ」が結ばれている。

いかがでしょうか。(5)はもちろんでしょうが、(3)(4)なども頭に入っていると仕事に役立ちます。日本で中卒が要求される日本地理や社会の知識とくらべて、難しいですか?

では続きもお楽しみに。